不動産投資家は、業者に「丸投げ」する時代からネットを上手に使って資産運用する時代へスペシャル対談 岸 博幸氏×大友健右氏 ~日本経済の動向と不動産市場の未来~

2020年以降、日本経済は厳しくなると予測されるが
首都圏だけは、不動産投資にも希望が持てる

大友日本経済の先行きが不透明な中で、不動産業界にはどのような影響が及ぶのか。岸先生は、どのようにお考えですか?

僕は、2020年の東京オリンピックを境に、日本経済はかなり厳しくなると考えています。長期的な成長率を示す内閣府の潜在成長率を見ても、20年度推計で0.8%と低く、今までみたいな成長が期待できないのは明らかです。

大友かなり厳しくなりそうですね。

基本的にはそうです。しかも2025年以降には、団塊の世代が全員後期高齢者になりますから、社会保障制度も限界を迎えて、法改正をしないと若い世代が将来もらえる社会保障の水準も下がります。別に悲観論を言う気はありませんが。

大友不動産投資家への影響はどのようにお考えですか。

経済が成長しないなら、自分の身は自分で守るために、資産運用をしっかりやらなくてはいけない。僕は長期分散投資が必要だと考えているのですが、その観点からも不動産投資はとても大事になってくると考えています。

大友不動産投資をする上で、これから先、何かプラスになる要因はありますか?

よく、不動産投資というと、「人口減少で空室リスクが上昇するからやめておいた方がいい」などと言う人がいますが、それは間違いです。

大友それは、どういう理由からですか?

もちろん、地方を含めた日本全体で見たら難しいところもありますが、少なくとも首都圏エリアや大都市圏で考えるとプラス要因があります。2020年から羽田空港の国際化が本格化しますし、2027年にはリニア新幹線も開通する。そういう観点からも、不動産投資にはまだ十分に魅力があると考えられます。

賃貸オーナーは、お金を出したら不動産業者にお任せ
仲介手数料に加え、広告料を支払う慣習も

岸博幸氏

大友一口に不動産投資と言っても、今まで多くの投資家、賃貸オーナーは「ただお金を出すだけ」。運用は不動産業者に「丸投げ」でした。そういう商慣習が、長い間続いてきたのが現状と言えます。

「不動産業者に丸投げ」というのは、物件を所有するオーナーが、不動産屋業者に運用面もすべて任せてしまうということですよね?

大友そうです。昔ながらの「大家業」ですね。物件を所有する以外は不動産業者に任せて「空室を埋めてほしい」と言うだけで。それがどんな物件であろうが、何の工夫も介在する余地なく、後は不動産業者しだい。

本当ですか?それは、株を買うのに、昔は証券会社の担当者に任せていたのと似ていますね。今では、ネットの普及で、それもずいぶん減りましたが。

大友一つだけ工夫の余地があるとすれば、お金で解決するという方法があります。「この部屋に入居者を付けてくれたらボーナスを出す」というやり方です。

でも、そういうやり方は法律の規制に引っかからないんですか?

大友宅建業法上のルールでは、賃貸契約が成約になった場合、不動産会社が受け取れる仲介手数料は「家賃1カ月分」と定められています。ところが、実際には不動産業者は「AD料」(広告料)と称して、オーナーからもう1カ月分とか数カ月分の手数料をとっている。借主が「礼金」として払ったものをそのままバックするわけです。その意味で礼金は存在するとも言えます。

ちょっと、法律に違反しているように……。

大友厳密に言うと法律違反です。でも、「AD料」は、法律に規定されている仲介手数料ではなく、あくまでも広告料だという解釈ですね。

こうした前近代的なマーケットの状況に、国は何も手を打たないのですか?

大友すでに、法律違反という判例が出ていますので、国交省もルールを改正しようと動き始めています。ただ、まったく機能していないルールを改正したところで、不動産業界のこうした文化、カルチャーそのものを変えていかなければ何にもならないと思います。

サイト上で賃貸オーナーと入居希望者が直接交渉
内見、契約は不動産会社が対応する

大友健右氏

そうした不動産業界の現状に一石を投じたのが、大友社長が手がけた「ウチコミ!」ですね?

大友そうです。さきほどの、法律以上のところ(AD料)を誰が負担しているのかというと、エンドとエンド、つまり賃貸オーナーと入居希望者です。そういうことなら、エンドユーザー同士が直接取引できる仕組みを作ってしまおうと考えました。

具体的にはどういう仕組みになりますか?

大友「ウチコミ!」のサイト上で、部屋を貸したいオーナーと入居希望者が直接やりとりします。質問や交渉もできて、実際に部屋を内見したい時は、地元の不動産会社に動いてもらいます。成約すると、オーナーは仲介手数料として家賃1カ月分だけ払えばいい。もちろん、AD料も礼金もなしです。

それは画期的ですね。でも、エンドユーザー同士が直接つながるようになると、これまで何カ月分もとっていた既存の不動産会社は反発しませんか?

大友初めのうちは反発もありました。しかし、この仕組みは、不動産会社を抜きには成立しないんです。内見、契約審査、契約書作成などは、実際に不動産会社に関わってもらわないといけませんから。それを、1カ月分のフィーでやってもらうのです。すでに、現在100社以上の不動産会社さんに賛同をいただいています。

なるほど。でもこれだと、大友社長の会社はもうからないですよね?

大友初めからもうけようと思ったら、こういうサービスはできません。不動産業界のど真ん中の問題、つまり、昔ながらのカルチャーそのものに向かって行って、エンドユーザー同士をマッチングするという仕組みは、今まで日本に存在しなかったわけですから。

確かに。

大友それに、私は既存のマーケットを否定するつもりはないです。既存のマーケットもある中で、「ウチコミ!」という新しい選択肢も提示したい。オーナーや入居希望者がどちらを選ぶかは自由。そうなるのが健全だと思っています。

賃貸サイトと売買サイトを上手に使って
利益を上げる投資家もいる

ところで、「ウチコミ!」は賃貸物件のマッチングサイトですが、売買物件の方はどのような状況ですか?

大友実は、「ウチコミ!売買REVO」という売買サイトをもう始めています。ただ、一般の閲覧者からは見ることができない仕組みになっています。大家さん、投資家の方が賃貸サイトに会員登録すると、マイページが作成されて、所有する物件を投資家同士で直接売買できるシステムになっています。

実際に、ここで売買が成立したことがありますか?

大友けっこう多いですね。中間の報酬がありませんから。1億円の物件取引なら従来では仲介手数料として売主で3%、買主で3%、計6%つまり600万円くらいのフィーを払っていたのが、まったくないわけです。売買物件の掲載料として一口3000円だけはいただきますが。

それは画期的ですね。このプラットフォームの取引ボリュームが増えて、旧来型のビジネスを超えるくらいに成長したらかなり面白そうですね。

大友実は、賃貸サイトと売買サイトを上手に使って利益を上げている投資家の方もいるんです。まず、「ウチコミ!売買REVO」で空室の物件を買います。その物件を「ウチコミ!」で入居者募集して、満室にします。そうなったところで売却する。つまり、買うときと売るときで物件の価値が変わったということです。

それは、かなり高度なテクニックですね。

大友でも、それほど難しくはないです。なぜなら、既存のマーケットなら投資家はただ丸投げするだけだったわけですから……。

それなら、自分の努力で物件の価値を高めてから売るという考え方ですね。なるほど、そういう使い方ができるんですね。

大友今のは一例ですが、この新しいプラットフォームは投資家の皆さんにとって活用のしがいがあると思います。

そういう意味では、「ウチコミ!」は金融投資のネット証券みたいなものですね。経験を積んで「空売り」を覚えるように、上手に使いこなせるようになればかなり面白い。「不動産流通の“昭和的世界”を本格的な不動産投資の世界に変えた」と言えるかもしれません。

大友その通りだと思います。

これまでお話を伺って、不動産投資というのは「投資」というより、むしろ「取引」の世界だと改めて感じました。前近代的で、投資家も不動産会社に丸投げするなど非効率だったのが、ようやくネットの力を使って、自分で考えて投資ができるように変わりつつある。これは資産運用の観点からも素晴らしい。こういうプラットフォームが伸びていって、今後は、不動産投資があたり前の資産運用の手段になってほしいですね。

大友私もそう思います。「ウチコミ!」は、最初1都3県でスタートしましたが、マッチングさせるエリアという意味ではリスクもあるので、あるていどエリアを絞ってやってきました。今では、関西にも進出しましたし、売買の方では、全国の大家さんが会員になってくれています。すでに、このマッチングサービスは成長の段階に入って、スピードがついてきました。

今日は不動産業界のことを、いろいろ知ることができました。今後の「ウチコミ!」の成長について、期待しています。

大友そう言っていただけると、このサービスを立ち上げた甲斐があります。今日は、対談いただき、ありがとうございました。

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お問い合わせ先/株式会社アルティメット総研 TEL.03-6279-0215
https://www.ultimate-souken.co.jp/

【対談者プロフィール】

岸博幸氏

博幸(きしひろゆき)
慶應義塾大学大学院教授
1962年生まれ。東京都出身。一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。通産省在籍時にコロンビア大学経営大学院に留学し、MBA取得。資源エネルギー庁長官官房国際資源課等を経て、2001年、第1次小泉純一郎内閣の経済財政政策担当大臣だった竹中平蔵氏の大臣補佐官に就任。その後、江田憲司衆院議員や元財務官僚の高橋洋一氏らと共に「官僚国家日本を変える元官僚の会(脱藩官僚の会)」を設立。以降、「脱藩官僚」としてテレビや雑誌でも活躍。講演では地域再生をはじめ、政治経済についての話をわかりやすく語る。おもしろく誰にでも理解できるような解説が好評である。エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問、エイベックス・マーケティング取締役も務める。

岸博幸氏

博幸(きしひろゆき)
慶應義塾大学大学院教授
1962年生まれ。東京都出身。一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。通産省在籍時にコロンビア大学経営大学院に留学し、MBA取得。資源エネルギー庁長官官房国際資源課等を経て、2001年、第1次小泉純一郎内閣の経済財政政策担当大臣だった竹中平蔵氏の大臣補佐官に就任。その後、江田憲司衆院議員や元財務官僚の高橋洋一氏らと共に「官僚国家日本を変える元官僚の会(脱藩官僚の会)」を設立。以降、「脱藩官僚」としてテレビや雑誌でも活躍。講演では地域再生をはじめ、政治経済についての話をわかりやすく語る。おもしろく誰にでも理解できるような解説が好評である。エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問、エイベックス・マーケティング取締役も務める。

大友健右氏

大友健右(おおともけんすけ)
株式会社アルティメット総研代表取締役社長
1972年生まれ。大手マンション会社で営業手法のノウハウを学んだのち大手不動産建設会社に転職。東京エリアにおける統括部門長として多くの不動産関連会社と取引、不動産流通のオモテとウラを深く知る。株式会社総研ホールディングス・株式会社アルティメット総研・株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役社長。

大友健右氏

大友健右(おおともけんすけ)
株式会社アルティメット総研代表取締役社長
1972年生まれ。大手マンション会社で営業手法のノウハウを学んだのち大手不動産建設会社に転職。東京エリアにおける統括部門長として多くの不動産関連会社と取引、不動産流通のオモテとウラを深く知る。株式会社総研ホールディングス・株式会社アルティメット総研・株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役社長。

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